食後高血糖改善薬を用いたBOT

2型糖尿病のインスリン療法の場合、一般的には超速効型の追加インスリン製剤を1日3回以上用いて食後高血糖を抑える治療(インスリン強化療法)をすることで、確実に血糖が低下するといわれています。
但し、追加インスリンは、作用時間が短いこと、低血糖へのリスクや膵臓への負担を考える上で当院では、基本的に1日1回のみの持効型の基礎インスリンを採用しています。

このインスリン療法は、24時間、食事に関係なく分泌の少ないインスリンを穏やかに補う方法です。
当院では、この基礎インスリンと食後高血糖の上昇を抑える経口薬との併用でのBOT(Basal Supported Oral Therapy)を行っています。

但し、一般的には、このBOTでの経口薬はSU剤が使われることが多いのですが、当院では、SU剤の代わりに食前薬(α-GI、グリニド)を用いる治療法を積極的に採用しています。
これは、食前薬で食後血糖を制御し、基礎インスリンで空腹時血糖を制御する治療法です。α-GI、グリニドは、β細胞の膵臓に負担をかけず、低血糖になりにくい安全なお薬です。
また、治療による体重の増加がおきにくいのも患者様にとっては治療を積極的に行いやすい利点となります。

院長が以前勤めていた病院で実践した入院患者様の食後高血糖改善薬を用いたBOTの治療効果について参考に掲載いたします。

※2012年7月~2013年11月までにBOTを実践した患者 45症例(HbA1c<8.0%を除く、GAD抗体陽性、透析導入例を除く)

 

入院後2週間までの血糖値の推移とインスリンの単位数の推移です。 血糖については、実線を空腹時血糖、点線を食後2時間、眠前血糖で示していますが、各項目の推移が平行に交わることなく低下しています。これは、食前に比べて食後が軽度高値であるという、生理的な血糖動態のまま、低血糖を起こさず、無理なく血糖が段階的に改善されていることをあらわしています。

インスリンの投与量については、血糖が高い状況では、インスリン量が増加傾向にありますが、8日目以降朝の空腹時血糖が120程度まで改善してからは、膵β細胞の機能回復とともにインスリン量が減量方向に向かっています。尚、経過中追加インスリンが必要になった症例はありませんでした。

入院後2週間までの薬剤の推移です。インスリン量は主に朝の空腹時血糖で日々調整しています。 薬剤は、グリニドやα-GIの他、必要に応じて、SU剤以外のビグアナイド剤やDPP-4なども追加調整おこなっています。グラフは通常用量を1として1症例あたりの量を表しています。α-GIは副作用対策で当初は3分の2用量で開始し、その後増量していきます。グリニドはβ細胞機能が回復してくる8日目以降くらいからだんだんと、減量方向に入っています。

BOTと強化インスリン療法での血糖値とインスリン投与量の推移を比べました。 症例毎に患者さんが異なりますので、絶対的なことは言えませんが、インスリン1回打ちのBOTでも、良好な血糖改善効果が期待できるのがおわかりいただけると思います。

退院後3ヶ月、6か月後の各項目のデータです。HbA1cや1.5AGという血糖指標のみならず、インスリンからの離脱や単位数の減少がみられます。また体重も減少していることも、このBOTの大きなメリットの一つです。
1年後までのHbA1cとインスリン量の分布ですが、1年後には多くの患者様がHbA1cの値が7%以下になっており、インスリンから離脱している患者様も多いことがうかがえます。 また、HbA1cの推移をみていだくと、3ヶ月後と12ヶ月後でほとんど変化がないのがお分かりいただけると思います。つまり、入院を必要とするような、血糖が高値であった方も多くの方がインスリンを離脱し、1年間良好な血糖を維持できていることがわかります。
1年後までの薬剤量の推移です。折れ線グラフで使用患者数を、棒グラフで使用された患者さんの使用量をしめしています。
使用薬剤の特性にもよりますが、基礎インスリンやグリニドは減量傾向にあることがわかります。
次に安全性についてのデータです。 低血糖の定義は難しいところですが、SMBG(血糖自己測定)の値で表示すると、70未満が約500回に1回という低頻度となりました。
比較対象がないので、絶対的なことは申し上げられませんが、低血糖のリスクが低いこともこのBOTの大きなメリットの一つと考えています。